いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
迎えようと、椅子から立ち上がりかけたと同時、別のエレベーターから降りてきた吉原さんがいち君を呼び止める。
声は聞こえないけれど、いち君が彼女に何か話していて、その顔は優しい。
彼女はこちらに背を向けて立っているので表情はわからない。
でも、楽しげな雰囲気は見ていて感じ取れた。
こうしてみると、美男美女でお似合いだ。
……いけない。
ここに来ると綺麗な人が多くてどうしてもネガティブな思考になってしまう。
余計なことは考えまいと、追い出すように頭を振って、私は……驚き、目を見開いた。
吉原さん手が、いち君の頬に触れて。
いち君が、彼女の顔へと、自身の顔を近づけたのだ。
そう、まるで。
──キスをするように。
足が震える。
意味もなく指先が動いて、息が詰まった。
悲鳴をあげるように暴れる鼓動。
ここにいたら、心臓が壊れてしまう。
私はよろめきそうになる足をどうにか動かして、彼らに背を向けた。
帰ろう。
早く、ここから離れよう。
涙が零れ落ちる前にと、滲む景色の中を私は必死に足を動かして。
ヒールの音を響かせながら、現実から逃げた。