いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「おい、真山。大丈夫か?」
ディレクターから心配そうに声をかけられたのは、残業中のことだ。
時刻はそろそろ午後十一時を回る。
マウスに手を添え、パソコンに向かっていたら背後から覗き込むようにされた。
どうやらぼんやりしていたようで、パソコンの画面はスクリーンセーバーを映し出している。
「調子悪いならそろそろ帰れよ」
背中をポンと叩かれ、私は苦笑しつつ「はい」と頷いた。
帰り支度をしながら頭に思い浮かべるのは昼間のこと。
いち君から連絡があったのは明倫堂のビルから出た直後で、私は震えそうになる声を必死に誤魔化しながら伝えた。
『ごめんなさい。すぐ事務所に戻らないといけなくて』
それで彼は納得してくれた。
実は仕事の用事ではないからいいよと。
せっかく会えたから、外で少しお茶でもできないかと聞きたかっただけなのだと、彼は笑った。
私を誘う為に降りてきて、それで吉原さんと何をしていたの?
その質問はできなかった。
信じてる。
東條社長に言い切ったのに、私は今、いち君を疑っている。
なんて弱い信頼。
自分の弱さにイラつきさえ覚えて、私は席を立つと事務所を出た。