いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
──警笛を鳴らし、電車がホームへと滑り込んでくる。
「はじめが、なぁ」
私から話を聞いた羽鳥さんは、腕を組んで唸った。
電車のドアが一斉に開いて、パラパラと人が降りてくるのを見つめていると、彼は言った。
「とりあえず、俺ははじめからそういった話は聞いてないな。俺があいつから聞く女の名前は君だけだ」
「そ、そうなんですか?」
驚きと、喜びと、少しの優越。
それらが混ざり、瞬きをしながら羽鳥さんへと視線を動かせば、彼はにっこりと笑んだ。
「そうだよ。高校ではじめと仲良くなったのも、君の名前がきっかけだし」
「え?」
なぜ私の名前が関わってくるのか疑問に思い、彼をジッと見つめてしまう。
すると、はじめに怒られるかなと笑いながら教えてくれたのは私の知らないいち君のこと。
高校二年の時、いち君のクラスに私と同じ"さゆ"という名前の子が転入してきたらしい。
それまで、いつも穏やかでどこか余裕そうな顔で過ごしてたいち君が、彼女の名前を聞いた途端、辛そうな顔をしたという。