いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


「あ、ご、ごめんなさい」


謝ると、彼は動揺し瞳を揺らしながら手を引っ込めた。


「いや、俺も、いきなりごめん……」


違う。

いち君。

私が欲しいの謝罪じゃない。

あれは違うよという否定と、バカだなって安心させてくれる笑顔なのだ。


「えっと、熱はない?」


触れることはせず、言葉だけで確かめてくる彼に私は小さく頷いた。

多分、私の様子が体調だけでなく、何かおかしいことに気づいたのだろう。

いち君は心配そうに眉を下げて私の顔を覗き込む。


「沙優? 本当に平気? 何か悩みでもあるとか」


優しい優しいいち君。

それは、私だから?

それとも誰にでも?

もしかして、彼女にも?


胸の奥から迫り上がる感情が唇を動かす。

我慢して目をつぶっていられるいい子では、いられなかった。


「……そうやって、誰にでも手を伸ばすの?」

「え?」


いち君が再び驚いた顔を見せる。

何を言ってるのかわからないと、丸くなったその瞳が語っていた。

なんでもない、と。

今なら引くことはできる。

だけど、私の唇はそれを紡がない。


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