いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「あの人の手が触れるのも受け入れて、キスまでするの?」
次から次へと溢れ落ちる言葉は、あの日の二人がしていたこと。
息苦しさに俯くと「沙優?」と彼の戸惑う声が聞こえて、私は逃げるように視線を斜め下へと向けた。
吉原さんの髪は、いつだって艶があって、お化粧も上手で。
服だって素敵なものばかり。
笑い方も上品で、振る舞いも優雅で。
女性として素直に憧れる女性だ。
どう考えたって、私よりも彼女の方が釣り合ってる。
コンプレックスと嫉妬が容赦なく私の心を黒く醜く覆い尽くしていく。
前向きに考えなければならないのに、その意思が芽生える余地もないほど、急速に黒が深く濃く、思考さえも悲しみに塗りつぶして、気づけば足元を写している視界が涙で滲んでいた。
これ以上はもう無理だ。
泣いて取り乱して責めることだけはしたくないと、私は俯いまま彼に告げる。
「ごめんなさい。今日は帰って」
「待ってくれ、沙優」
「お願い」
震える声で懇願すると、彼は仕方なく言葉を飲んだ。
そして、暫しの沈黙の後。
「わかった。でも、今度きちんと話を聞かせて」
彼からすれば、いきなり撥ねつけて、責めて、帰れと言われて機嫌を損ねてもいいくらいなのに。
「今日はごめん。ゆっくり休んで」
扉を閉める直前まで、その声色はとてもとても優しくて、なぜこうなってしまったのかとひたすらに悔やむ。
せめて、あの時、別の場所にいて見なければ、知らなければ良かったのにと心が叫んで。
「っ……ふ、……ぅ……」
涙が、止まらなかった。