いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
そうか……。
以前、いち君は、いち君のお母さんが亡くなった時に社長は涙も流さなかったと話していた。
でも、本当は一人で泣いていたのかもしれない。
母の言う通り、何かがあったのかもしれない──と、そこまで考えて、ふと思い出す。
社長の言葉を。
「……逃げたくなるって、言ってた」
「え?」
「私が、"彼女"に似てて逃げたくなるって」
あの時は誰の話かわからなかったけど、もしかして……
「"彼女"って、いち君のお母さんのことかな?」
母に尋ねると、ええ?と怪訝そうな顔をされる。
「どこが似てるのかしら」
「いや、それは私もわかってるけど!」
あんなに綺麗な人と私が似てるなんておこがましいのは百も承知だ。
でも、あの時は確か真っ直ぐな目の話をしていた気がする。
それを伝えると、母は少し考える素振りを見せて……
「まあでも、そうね。確かに真っ直ぐで綺麗すぎて……あの人には眩しかったのかもね」
呟くと、ちょうどそのタイミングで父が玄関から声を張り上げる。
「そこの二人ー! 夕飯に食べに行くぞー!」
母がそれに「はいはい」と答えてエアコンを停止させた。
私も「はーい」と返事をして、ソファーから立ち上がる。