いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
困ったことになった。
「沙優、あなた本当にどんくさいわね」
わかっている。
私は器用じゃないし、運動神経だっていい方じゃない。
慎重派のくせに、うっかりミスも少なくない。
そして今回のうっかりミスは……
「とりあえず帰りなさい。スマホは見つけたら宅急便で送るから」
母に言われ、私はよろしくお願いしますと項垂れ電車に乗り込んだ。
そう、私はスマホを無くしてしまった。
気づいたのは月曜日、墓参りの後だ。
夕食を食べて、入浴の前にいち君からの連絡が来ていないかとスマホを確認しようとした時、ショルダーバッグに入れていたはずのそれが無くなっていた。
実家に帰省した日も、翌日の朝もいち君からのメッセージは届いていた。
それはどれも重要なものではなく、挨拶や報告のようなもの。
私も同じように挨拶したり、これから墓参りに行くというメッセージを返していた。
スマホが行方不明になり、二日。
もし何か連絡がきているとすれば、なぜ読まないのかと不審に思っていることだろう。
ひとまず、新しいスマホを用意しないと明後日からの仕事にも支障が出るかもしれない。
今日は帰る頃には日が暮れるし、明日の朝イチで携帯ショップに出向こう。
もう本当に、いち君とのことといい、なんだかついてない。
いっそお祓いでも行こうかと電車の座席に座りながら、私はひっそりと自嘲した。
そして、二時間後。
私はまた肩を落とすことになる。