いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


駅を出てすぐ、ゲリラ豪雨に襲われたのだ。

すでに陽は落ちて空は暗く、それもまたどんよりする気持ちに拍車をかける。

なぜ、今、このタイミングで降るのだと心の中で悪態をつき、急いでコンビニ駆け込み透明なビニール傘を購入。

なるべく濡れないようにと気をつけて帰ってきたけれど、アパートが少し遠くに見える頃には履いていたスキニーパンツはびしょ濡れになっていた。

夏で良かったと思いつつ、大きめのボストンバッグを肩にかけて足を進める。

すると、途中のパーキングに見慣れた白いスポーツカーを見つけた。

……いや、違うはずだ。

今日は会う約束はしていないと、車から視線を外して、再びアパートを目指す。

ローヒールのミュールはデニムパンツと同じく濡れている。

歩く度にぐしゅりという嫌な感触がするけれど、気になるはずのそれがあまり気にならないのは、今しがた見たスポーツカーが頭の中にあるからだ。

運転席には誰もいなかった。

この雨だし、もし、万が一彼が来ているとしても、普通は車内で待つだろう。

だから違う。

そう、思うのに。

予感があった。

だって、スマホを無くした私との連絡が取れないから。

彼ならもしかしたら、心配して来るかもしれないと。

具合の悪い私を心配して訪ねて来たように。

だからかもしれない。

アパートの前に立つ彼の姿を見ても、あまり驚かなかったのは。

でも、彼の状態には思わず目を見張り、私は慌てて走り寄る。


「いち君!」


彼は、傘も差さずに雨に打たれていたのだ。


< 225 / 252 >

この作品をシェア

pagetop