いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
駅を出てすぐ、ゲリラ豪雨に襲われたのだ。
すでに陽は落ちて空は暗く、それもまたどんよりする気持ちに拍車をかける。
なぜ、今、このタイミングで降るのだと心の中で悪態をつき、急いでコンビニ駆け込み透明なビニール傘を購入。
なるべく濡れないようにと気をつけて帰ってきたけれど、アパートが少し遠くに見える頃には履いていたスキニーパンツはびしょ濡れになっていた。
夏で良かったと思いつつ、大きめのボストンバッグを肩にかけて足を進める。
すると、途中のパーキングに見慣れた白いスポーツカーを見つけた。
……いや、違うはずだ。
今日は会う約束はしていないと、車から視線を外して、再びアパートを目指す。
ローヒールのミュールはデニムパンツと同じく濡れている。
歩く度にぐしゅりという嫌な感触がするけれど、気になるはずのそれがあまり気にならないのは、今しがた見たスポーツカーが頭の中にあるからだ。
運転席には誰もいなかった。
この雨だし、もし、万が一彼が来ているとしても、普通は車内で待つだろう。
だから違う。
そう、思うのに。
予感があった。
だって、スマホを無くした私との連絡が取れないから。
彼ならもしかしたら、心配して来るかもしれないと。
具合の悪い私を心配して訪ねて来たように。
だからかもしれない。
アパートの前に立つ彼の姿を見ても、あまり驚かなかったのは。
でも、彼の状態には思わず目を見張り、私は慌てて走り寄る。
「いち君!」
彼は、傘も差さずに雨に打たれていたのだ。