いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
彼を見送る背中に、ひしひしと感じる視線。
振り返った私はもちろん周りの人たちとは一切目を合わせず、社長には「お騒がせしてすみません」とお辞儀をしたのみで席に戻る。
そして、「めでたい!」と浮かれる社長の声をでき得る限りシャットアウトし、ファイリング作業に勤しんだ。
実は、毎日つけているネックレスを隠し続けるのも限界だった。
なので、そろそろ付き合ってることを公表しないと気疲れしそうだなと苦笑しつつ事務所を出ると、さっき社長も言っていた通り、夜になってもまだまだ蒸した熱気が私を迎えた。
この辺りは繁華街から少し離れてるので金曜日の夜といえど比較的人の往来は落ち着いている。
いち君は事務所が入っているビルの隣のカフェで待っているはずだ。
すぐ着くしメッセージは送っていないけど、としかして驚かせちゃうかなとカフェの扉に手を伸ばそうとしたら──
「真山、沙優、さん」
力のない、女性の声に呼ばれて足を止めた。