いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


「彼の為にと思ったのに。私のせいで息子にまた嫌われたって、解雇されて……」


息子に、と確かに聞こえた。

ならば彼とは東條社長のことではと推測する。

ということは、きっと吉原さんの一件だろう。

私は、彼女が文句を言いに訪れたのだと悟り、早くカフェに入ろうかと悩む。

中にはいち君がいるはずだ。

私だけで対処できそうになければ、助けてもらおう。

頭をフル回転させて、彼女の様子を伺った。

話していて興奮してきたのか、先程よりも口調が強くなる。


「あなたのせいよ。あなたが! あの時お金をもらっていれば! 私はこんなことには!」


……ああ、そうか。

坂巻さんは、気に入らないのだ。

今の自分の状況が。


「坂巻さん。あなたの気持ちはわかります。でも、あなたがしたことは東條社長の為じゃなく、自分の為なんですか?」


彼女はきっと、評価してもらいたかったのだ。

よくやったと。

努力してくれてありがとうと。

そして、満足したかったのだろう。

けれど失敗した為に、怒りを買った。

当然だ。

社長の為を思って行動するのなら、やり方を間違えている。

社長は僅かでも息子に歩み寄ろうとしたのだ。

いち君は交渉を断ったようだけど、それでも社長は無理強いをしなかった。

嫌われたというのが本音であれば、社長も色々と考えていたのかもしれない。

そこに他者が余計なことをしたら、それは確かに腹も立つというものだ。

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