いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「そ、そんなわけないわ!」
坂巻さんは社長の心よりも自分の評価を優先した自覚がないのだろう。
ギロリと鋭い目つきで睨まれて、私は半歩後ろに下がりつつも負けじと口を開いた。
刺激せず、穏便に済ませればいいのはわかっている。
でも、せっかくいち君の心が少しでも軽くなったかもしれないのに、その可能性を潰されたのが少し悔しかったのだ。
だから黙ってはいられなかった。
「解雇されて私に文句を言いにきたのは、あなたの思い通りにならなかったからですよね。優先すべきは社長の気持ちだと思うんです。今からでもよく考えて、東條社長に謝罪を──」
「うるさいっ!」
ヒステリックな声と共に彼女が一気に私との距離を詰めて手を上げる。
叩かれるのを覚悟して瞼を強く閉じた私の耳に、カフェの扉が開く涼やかな鈴の音が聞こえた。
次いで「沙優!」といち君の切羽詰まった声がして、私の体が心地よいフローラルの香りを纏う彼に抱き寄せられる。
そして──
「息子の大事な女性に手を上げないでもらえるかな」
聞こえたのはいち君の声ではなく、彼女の腕をがしりと掴む東條社長のものだった。