いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
直後、カッと頬に熱が集まり、私は咄嗟にそれを隠すよう俯く。
呼び捨ての威力、ヤバイ。
いや、きっと相手がいち君だからこんなにも恥ずかしいのだろう。
そのまま無言になったいち君の様子が気になって、ちらりと彼を覗き見れば、嬉しそうに頬を緩める彼もまたほんのりと耳を赤く色づかせていた。
二人して、まるで付き合いたての学生みたいだと少しおかしくもなったけど、私だけが変に意識しているわけじゃないことに安堵する。
「なんか、恥ずかしいね」
伝えると、いち君は照れながら頷き、握りしめている手にキュッと力を込めた。
臨港パークに着くまでの間は、私もいち君を呼び捨てにするかどうかの議論が交わされたけれど、彼も私もいち君呼びが耳に馴染んでいるからと変更しないという事に決まった。
それならいち君も"沙優ちゃん"のままでいいのではと提案してみたけど、そこは自分がそうしたいからと譲らず、結局、【いち君】【沙優】呼びに決まったところで目的地に到着。
海辺に広がる公園を潮風を浴びながら散歩し、海を跨ぐようにかかる橋を眺めつつ話す内容は、当たり障りのないものばかり。
今、どんな仕事をしているのかとか。
最近見た映画の話とか。
『どうして、何も言わずに転校してしまったのか』
頭にある一番聞きたいそのことは聞けず、結局絞り出せた思い出話しはまた名前に纏わること。