いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
事の始まりは、親が勝手に進めた縁談話だ。
「お見合い!?」
実家から『大事な話がある』という連絡が入り、まさか離婚でもするのかと急ぎ帰郷すれば、ある意味それと匹敵するまさかの話をされた。
「そうなの。先方からぜひ沙優とってご指名が入ったのよ」
リビングのソファーに座り驚きの声を上げた私に、洗い物をする母がカウンター越しに答える。
その声色はどことなく嬉しそうだ。
ローテーブルを挟み、私の向かい側に座る父も、新聞を広げながら声を弾ませる。
「やー、まさかこんな良縁に恵まれるとはなぁ。パパは嬉しいぞ」
「い、いやいや! お見合いって、私別に結婚とかまだ」
考えてないし。
と、言い終わらないうちに母の呆れた声が割って入ってきた。
「何を言ってるの。あなたはもう二十七歳よ。今年の八月が来れば二十八。あと二ヶ月で二十八よ?」
「そ、そうだけど?」
「ママが二十八の時、あなたは三才。つまり、ぼやぼやしてると婚期を逃して一生独身かもしれないわよ」
「そうなってもパパは問題ないぞー」
「パパは黙ってて」
母に睨まれた父は「はい……」と肩を小さくして、顔を新聞で隠す。
相変わらず母には頭が上がらないらしい。