いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
『彼女』と口にしたいち君が、優雅に手のひらを伸ばした先にいるのは、どう見ても私。
うちに女性社員は他にふたりいるけど、ひとりは外出してるし、もうひとり、いち君のことを目をハートにして見惚れている事務の女性は、彼が指し示している方向とは真逆の位置に座っている。
なので、いち君が私の隣の席で仕事に勤しみつつ様子を伺っている男性社員を女性と見間違えていなければ、私しかいないわけで。
「ご依頼はとても嬉しいですが、なぜ真山に?」
驚き目を丸くした社長は首を傾げて問いかけている。
無理もない。
なんせ私は最近ようやく仕事をひとりで任されるようになったばかりなのだ。
雑誌やテレビで話題に上るデザイナーでもないし、いきなり名指しで仕事を依頼されれば私本人も首をひねるところだ。
ただ、今回ばかりはなんとなく理由はわかる。
多分いち君は、仕事でも繋がりを作ってアピールポイントを用意──
「ええ、実を言いますと、彼女は近々私のおよめ」
「あー! お、幼馴染! 幼馴染なんです!」
分析していた思考を一気にシャットアウト。
私は余計なことを言われないようにと、急ぎ立ち上がっていち君の言葉を遮った。
なぜか挙手までした私の慌てっぷりを見て、いち君はクスクスと肩を揺らして笑っている。