いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
……これは、からかわれたのだろうか。
私が慌てふためくと予想して、わざと自分の嫁になるとか、その類のことを口にした?
そうですか。
そっちがそのつもりならばと、私は佇まいを直してニッコリと笑んだ。
「お断りします。どうぞ私よりも優秀な方がこの事務所にはたくさんいますので、別の方に」
してください。
からかういち君に、お仕置きも兼ねて抵抗しようと続けるはずの声は、デスクに向き直ったところで制された。
いつの間に私の隣まで来ていたのか。
ほのかに甘く爽やかなフローラルの香りを連れて、いち君は私の肩を掴むと耳元に唇を寄せて囁く。
「受けてくれないなら、沙優は俺の花嫁さんって言うけどいい?」
声と共に漏れる吐息が耳をくすぐり、私は少し距離を取るように体を捻る。
「ず、ずるい!」
声を潜めて抗議するも、彼は余裕の表情で小さく笑うだけ。
「そうだよ。俺は、君のことになるといくらでもずるくなれるんだ」
覚悟してて。
そっと囁かれて、怒るどころか頬を染めてしまった私を見て、いち君は少し嬉しそうに微笑んだのだった。