いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
彼はエンジンを止めると、わざわざ車から降りてきて、挨拶もそこそこに助手席のドアを開ける。
「どうぞ、お姫様」
アイドルのようなキラキラスマイルで乗るように促す彼はまさに王子様。
白馬のごとき白い車に乗り込んで、実は運転は得意じゃない、なんてオチもあるかなと考えてみたけど。
「隣に沙優が乗ってるの、なんだか変な感じがするな」
はにかむ彼のハンドルさばきは滑らかで。
ブレーキも丁寧で彼らしく。
前方を見つめるその横顔もかっこよくて。
どこまでも完璧で、悔しかった。
別に何か欠点を見つけてからかってやろうとか、そんなつもりはないけれど、完璧過ぎても心配になるというかなんというか。
昔から非の打ち所がない人だったし、何でもソツなくこなすいち君にも苦手なこととかあれば、親近感も湧くのに……って、湧いてどうするというのか。
湧いたら結婚?
いやいやいや。
いくら恋していた人でも、親近感が湧いただけで結婚はできない。
じゃあ、何で私はそんな風に思ったのか。
……考えて、気づいた。
いち君と私の間に、壁があるように感じるからだと。
結婚したいと口にする彼は、十二年間音沙汰のなかった人だ。
当然、その間にいち君は色々と経験して生きてきたわけで、私も然り。
会えずにいた年月は長く、あの頃には確かにあった親しい空気を薄くしてしまった。
変わらないと思う部分は多くあっても、私たちはもう、あの頃とは違う。
だから……
取り戻したいのかもしれない。
壁のない関係を。
そんなことを考えつつ、先日彼が会社に訪れた際の愚痴なんかも零せば、したり顔したいち君。
その顔もまたかっこよくてうっかりときめいたりしながらも、無事に目的地に到着した。