いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
一番人気のアトラクションは最後にしようと提案したのは私だ。
そして、その前におばけ屋敷に入ってみたいと言ったのはいち君。
遊園地の経験がゼロの彼は、おばけ屋敷も入ったことがないらしく、どの程度怖いのかと興味津々だった。
『怖かったら遠慮なく抱きついてくれていいよ』
余裕の王子様スマイルで口にしたのは誰だったか。
私の前を歩いていた彼は、微笑みを携えたまま途中で足を止め、動かなくなったのだ。
そして、おどろおどろしいBGMが聞こえる中、声を零した。
『非常口ってあるのかな?』
怖いのかと聞いてもいち君は『非常口は?』としか答えず。
相当苦手なんだなと悟った私は、彼の手を引いて出口を目指した。
落ち着いたいち君に、この事は忘れてくれとお願いされたのが三十分前。
そして、現在の彼はというと。
「これは……想像以上だな」
ベンチに腰を下ろす互いの姿を見て、呆気に取られていた。
この遊園地で人気のウォーター系ジェットコースター。
乗る手前、係りの人に透明なカッパを渡され時、噂通り少し濡れてしまうんだねと話をしていた。
けれど、終わってみれば私たちは少しではなく、そこそこ濡れていて。
私が着ているデニムパンツの裾はすっかり色を濃くして、トップスのオフショルダーのブラウスも所々が濡れてしまっている。
そして、いち君も。
「ぷっ! あはは! いち君濡れすぎだよ」
「いや、何であのタイミングでフード外れたんだろう」
彼は途中でフードが外れてしまって、部分的にではあるけど髪が濡れて水が滴っている。