いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


そして数日後──。

母と先方があっと言う間に日取りを決めて、貴重な休日に私は渋々指定された老舗の料亭へとやってきた。

まだお見合い相手の男性は到着していないようで、私は一人、広いお座敷に用意された座椅子の上に正座して待つ。

そうして、座椅子の後ろに白いハンドバッグを置くと、視線をテーブルに落とした。

一体どんな男性なのか。

結局本当になんの情報もないままで、私はここに座っている。

写真も見てないし、相手がどんな人なのか全くわからない。

不安と期待が入り混じる中、髪は乱れていないかと肩よりも少し長くカットした頭を撫でて確認。

そして、浅く息を吐き出した所で「こちらでございます」と案内する女性の声が聞こえた。

来た、と。

思わず背筋をシャキリと伸ばした直後。


「失礼致します」


案内の女性の声が聞こえて、引き戸が開く。


「どうぞお入りください」


着物を纏った女性が入るように促すと、引き戸の向こうの影が揺れて。


「ありがとうございます」


甘く柔らかな声が聞こえ、待ち人が姿を現した。

スラリとした長身に黒いスーツを纏う彼は、私をその優しそうな瞳で捉えると、嬉しそうに目を細める。

その様子を見ながら、私は固まっていた。

なぜなら彼は。


「久しぶり。会いたかったよ、沙優ちゃん」


十二年振りに再会した、初恋の相手だから。


「い……いち、君?」


信じられなくて、彼だとわかっていながらも尋ねるように声にした。

すると彼は破顔させて「そうだよ」と、私の向かいに腰を下ろす。


「いち君が縁談の相手?」


なおも問いかけると、彼は昔と変わらないどこか儚げで、けれど穏やかな笑みを浮かべ頷いた。


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