いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
人生初の遊園地に、彼は大満足だったらしい。
おばけ屋敷のことに触れると、その記憶は彼の都合によりすでに抹消済みのようで、口元だけに笑みを浮かべて『なんの話?』と、疑問形なのに答えを求めていない反応を返された。
帰りの車内は行きより会話も弾み、いち君が笑えば私も笑って。
私が笑うといち君も笑う。
その空気は昔のように気兼ねない感じだった。
もしかしたら、寂しいと吐露できたからかもしれない。
いち君にも事情があることを知れたし、きっとつかえていた何かが僅かでも取れた。
その効果なのかも。
どことなく解れた雰囲気の中、いち君のお勧めだというイタリアンで夕食を済ませ、心もお腹も満たされた午後九時半。
車が私の住むアパートの前で停車した。
楽しかったからか。
それとも、いち君ともう少し一緒にいたいのか。
少しだけ後ろ髪を引かれる思いで車を降りると、彼はトランクを開けてその腕にいっぱいのピンクと白の花束を抱えた。
「今日はありがとう。楽しかった。お礼、受け取ってくれるかな」
小さな星を集めたような可愛らしい花束を受け取りながら、私は頬を緩めて「こちらこそありがとう」と楽しめたことを伝える。
すると、トランクからもうひとつ、白い封筒を取り出して咲き誇る花の隙間に挟み入れた。