いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
先ほどの女性が吉原さんなら、特別な人だとか、彼女は紅茶派だとか、そんなのを聞かされているわけだ。
まして、口調だって少しくだけていたし、もし私が吉原さんの立場なら、彼女なのかしら、なんて少しは疑うだろう。
仕事だって、コネで……と想像したっておかしくない。
「俺は沙優となら噂されても構わないし、そのうち結婚すればみんな知るんだからいいよ」
「そ、そういうことじゃなくて、いや。そういうことならなおさら良くないよ」
「贔屓やコネじゃないかって?」
いち君の言葉に、私は真面目な顔で首を縦に振った。
すると、今まで柔らかかった彼の表情も真剣なものになる。
「俺はちゃんと沙優のデザインしたものを見てる。君の作るものは魅力的だし、受け取る側の心に残る。だから頼んだんだ」
「いち君……」
素直に嬉しかった。
魅力的だという響きが、心に残るという言葉が。
自分を表現するのが苦手な私には、自分を認めてもらえたみたいで、とても、とても嬉しくて。
「ありがとう」
そういえば、彼はいつだって私のことを良く見ていてくれたし、認めてくれていた。
小学生の頃、密かに練習していたのに運動会のかけっこでビリになって。
笑顔で悔しさを隠していた私に、いち君は『一番頑張ってたのは沙優ちゃんだよ』と言ってくれた。
そして、その日の夕方に、手紙をもらったのだ。
手作りの一等賞メダルが入った手紙を。
そのメダルはタイムカプセルに入れてしまって残念ながら無くなってしまったけど、手紙は今も保管してある。
懐かしくも心温まる思い出に思わず頬を緩ませ、私はひとつ頷いた。
「お仕事、しっかりやらせていただきます」
私を選んでくれた彼の期待に応えられるように。
「うん。よろしくお願いします」
いち君が微笑むと、それを合図に私たちは本格的に仕事モードに突入したのだった。