いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


明倫堂で人気のコスメシリーズ【シャルマント】。

フランス語で魅力的という意味なのだそう。

今回は、その新作となる口紅のパッケージデザインの依頼だ。

コンセプトは【唇にプロポーズ】だそうで、それほど魅力的な唇になれるという意味が込められているらしい。

納期は二ヶ月後。

わりとゆったりとしたスケジュールなので、じっくりとデザインを考えられるのはありがたい。


私は打ち合わせが終わると、ウェイティングスペースでいち君と別れ、お手洗いへと向かった。


ゴージャスで可愛らしいイメージでとの注文を受けたので、職場に戻ったらすぐに取り掛かろう。

プロポーズだから、幸せな気持ちなれる可愛さがいいかな、なんて考えながら、廊下に出たところで、前方に、先程別れたはずのいち君が誰かと話しているのを見つけた。

相手の年は五十代くらい。

この会社に知っている人なんていち君しかいないのに、私はなぜかその人を見たことがある気がした。

浅黒い肌に、高く筋の通った鼻。

その端正な顔をどこで……と記憶を掘り起こしながら、いち君に視線を移せば。


「はい、問題ありません。ご安心を」


頭を下げた彼が、一瞬、なんだか苦しそうに見えて……思い出した。

男性が、いち君の父親だと。

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