いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
私の前ではよく笑みを浮かべている彼が、お父さんの前では表情を固くしている。
まるで、表情のない人形のような姿に、もう一つ思い浮かんだ過去。
一人で本を読んでいた時のいち君も、こんな顔をしていたのだ。
あの頃はそこに悲しそうな、寂しそうな顔を覗かせることもあったけど……今は、諦めたような冷めた顔にも見えて。
「いち君」
放っておけず、あの頃のように思わず声をかけてしまった。
いち君は驚いた顔で私を視界に捉えている。
そして、形のいい唇が「沙優……」と私の名を紡いだ瞬間。
「……沙優? 真山沙優さんかい?」
いち君のお父さんの瞳が私を真っ直ぐに見つめた。
「はい、真山沙優です」
「そうか。素敵な女性に成長したね。私のことは覚えているだろうか」
「もちろんです。ご無沙汰しております。私、この度御社の新商品のパッケージデザインを担当させていただくことになりました。良いものをお届けできるように精一杯頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」
いち君のお父さんは明倫堂の社長。
失礼のないようにしっかりと頭を下げた直後。
「君に、デザインを?」
疑問が溢れて。
「仕事に私情を挟んだのか」
厳しい声がいち君に向けられた。