いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「突然どうしたの?」
水中に揺蕩うクラゲのような、ゆったりとしたアンビエントミュージックに、彼の高くも低くもない穏やかな声が重なる。
「実は昨日、高校の同窓会の案内が届いたの。それで何となく自分の学生時代を思い出してたんだけど、いち君は高校の頃どうしてたのかなって思って」
「つまり、俺のことが知りたくなったんだ」
機嫌良さそうにニコニコするいち君。
俺に興味を持ってくれたんだねと言われているようで微妙に頷き難いんだけど、知りたいのは間違いないのでおずおずと「う、ま、まあ……」と濁すように頷けば、彼は満面の笑みを浮かべる。
「嬉しいな。でも、別に楽しい話とかないよ?」
それでも良ければ。
そう言って、いち君は優雅に泳ぐ魚を見て回りながら話してくれた。
今でも仲の良い羽鳥という友人のこと。
二年生の時に生徒会長に就任したこと。
部活は友人に誘われて弓道部に所属していたこと。
センター試験の前日に高熱を出したこと。
たくさん、教えてくれた……けど。
ひとつ、気になってしまった。
「……いち君の母校って、男子校?」
彼の語る高校時代の話には、女の子の気配が全くと言っていいほどなかったのだ。
だから、首を傾げて問えば。
「共学だよ」
きっぱりと否定された。
では、もしかして私に気を使って口にしなかったのだろうか。
いち君ほどのハイスペックな人が、高校生活で一度も浮いた話がないなんて想像もつかない。
「彼女とかいなかったの?」
ズバリ聞いてみると、彼は頬を緩ませ目を細める。