いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
観客席に拍手が鳴り響く。
イルカショーは大盛況の内に終わり、少し喉が渇いた私たちは売店のあるテラスへと向かった。
幸いにもテーブル席は空いていて、いち君は自分が買ってくるから待っていてと言い残し、売店へ踵を返す。
彼の優しさに申し訳ないと思いつつも甘えさせてもらい、白いテーブルとお揃いの白い椅子に腰を下ろそうとした瞬間。
「もしかして沙優ちゃん?」
背後から名を呼ばれて振り返れば、そこに立っているのは懐かし過ぎる人の姿。
「えっ……聖司(せいじ)」
自分の唇から久しぶりに紡がれた名前に、目の前の彼が破顔する。
「やっぱり沙優ちゃんだ! 久しぶりじゃん」
さっき一瞬思い出した初彼とのまさかの遭遇に動揺を隠し切れない私は、瞬きを繰り返した。
再会を喜び白い歯を見せて笑む聖司は、同じ年で、高校二年生の春、初めて付き合った人。
気さくでオシャレな彼は、女子の友達も多くて、私もその中の一人だった。
それが、彼氏という関係に変わったのは、タイムカプセルを埋めた場所にマンションが建つと母から聞かされたからだ。
唯一残るいち君との繋がりが絶たれてしまう。
それが嫌で、ならばいっそ掘り返してしまおうと現地に急いだけれど、すでに目印のクリーム色の花が咲く木はなく、土だけが広がっていた。
ショックを受けた私はしばらく落ち込んでいたのだけど、その気持ちに寄り添ってくれたのが聖司だ。