いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


出席にして、ほんの一時間でも……と思案していたら、聖司が私の顔を覗き込んできた。


「忙しいなら、落ち着いた頃に二人で飲みにでも行く?」


私を誘う彼の瞳の奥には、付き合っていた頃に見せられていた淡い色香。

制服姿の聖司が、私の手を引いて家に誘う時の目を思い出し、ヤバイと苦笑いした時だ。


「残念だけど、彼女はその誘いには乗れません」


両手にストローの挿さったドリンクカップを手にしたいち君が笑顔で会話に入ってきた。

幼馴染を女性だと勘違いしていた聖司は面食らって瞳をぱちくりしている。

そんな聖司に構わず、いち君はテーブルにドリンクを置くと私の肩を抱き寄せた。


「はじめまして。彼女に近づかないでもらえますか」


終始笑顔のいち君は、穏やかな声で挨拶しているのに喧嘩腰。

どんな相手にもスマートに対応し、自分のペースに持ち込むいち君らしからぬ態度に、彼の機嫌がとてつもなく悪いのではと予想する。

聖司はというと、あからさまな敵意を向けられてようやく事態を飲み込んだらしい。


「幼馴染ってこの人?」


尋ねられ、私が頷くといち君は貼り付けている笑顔をキープしたまま「東條です」と名乗った。

その刹那、聖司が目を見張る。


「東條って……もしかして、いち君?」


聖司の声に、いち君の笑顔が引き攣った。


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