いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
透明なグラスに冷えたお水をもらい部屋に戻ると、羽鳥さんがいち君の頭を軽く叩いて起こす。
「おーい、はじめ。愛しの沙優ちゃんがきたぞ」
愛しの、という部分に突っ込むか否か逡巡していると、寝ていたいち君が身動いだ。
「ん……気安く沙優を名前で呼ぶなよ……樹……」
舌足らずな口調で羽鳥さんを嗜める彼に、私は声をかける。
「いち君、起きて。お水飲んで目を覚まして」
言いながら、まだ瞼を閉じているいち君の傍らに膝をつくと、パチリと彼が覚醒した。
そして、私をその視界に捉えると困惑して瞳を揺らす。
「さ、沙優?」
「そうよ。おはよう。はい、お水どうぞ」
「……あり、がとう」
私の登場に酔いが少し醒めたのか、彼は体を起こすと私の手から冷たい汗をかくグラスを受け取った。
いち君が起きたのを確認した羽鳥さんは、戸惑う彼を楽しそうに眺め、やがてソファに立て掛けてあった自分のビジネスバッグを手に持つ。
「じゃ、あとは頼むよ」
いち君に無理するなよと言い残し、羽鳥さんは店を出て行った。