悲劇のヒロインなんかじゃない。
「…青嶋さん」


「…薫さん…」


中にいたのは青嶋さん…ともう一人、女性…


何をしていたか、なんて聞かなくともわかる。


彼女の蕩けたように赤く染まった頬を見れば…。


私は拳をにぎり笑顔をつくった。


「青嶋さん、こんにちは。お仕事中に失礼をして申し訳ありません。どうしてもお話がしたくて参りました。」


「薫さん…」


青嶋さんは困った顔を私にみせる。


そんな彼の後ろにいる女性は不安そうな顔で彼を見つめ、その手は彼のスーツの裾を握っている。


「…婚約のことですが…」


切り出したのは青嶋さんからだった。


「申し訳ないのですが、なかったこと、にしてほしいのです。」


胸の奥がヒュッと冷たくなった。
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