恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
 ベッドを目の前にして立ち尽くしている私の、握っているその手を、修平さんの反対側の左手が触れた。

 途端、傍目にも分かるほどの勢いで肩が跳ねあがる。
 その反動で、私の瞳からポロリと滴が床に落ちた。
 
 「杏奈…座ろう。」
 
 修平さんは繋いだ手を引いて、私をベッドサイドに座らせた。
 私が座った隣に彼も腰を落とす。その重みでベッドがたわむのを感じて、私はまたその身を固くしてしまう。

 並んでベッドに座っている私たちに、また沈黙が訪れる。
 さっきまでも勢いはとうに無くなって、私はこの沈黙を破ることは出来ない。
 ただ膝の上にある両手を硬く握りしめているだけ。


 「ごめん。」

 静寂を打ち破ったのは今度は修平さんだった。
 肩が触れ合うか合わないかのギリギリの距離に座っている彼の声は小さくても良く聞こえる。その声はさっきほどは弱々しくはない。

 「杏奈を怖がらせたいわけじゃないんだ。」

 恐る恐る顔を斜め上に向けて彼の方を見た。
 真摯な瞳が私を見下ろしている。

 もし彼の瞳の中に少しでも『欲の色』が見えたなら私は彼の『我が儘』を承諾しなかったと思う。
 彼の瞳は奥まで澄んでいて、星屑を刷いたように煌めいている。
 ただ、その眉は少し寄せられていて、やっぱりどこか寂しげに映った。
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