恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
 私たちはそんなアンジュを眺めながら、自分達の自己紹介をすることになった。


 瀧沢修平さんは28歳で、市内の建築事務所で建築士のお仕事をしているそうだ。
 この家は今は亡きお祖母様の為に、彼がリフォームしたもので、彼女を見送った後は彼が一人で住んでいる。あ、正確にはアンジュもいるから一人と一匹暮らしだ。
 アンジュはフラットコーテッドレトリバーという犬種で、ダークチョコレートみないな毛並み(レバー色っていうらしい)が綺麗でとても賢い三歳女の子。彼のお祖母様がなくなる一年前に突然どこからか貰ってきたらしい。
 
 瀧沢さんのご両親は仕事で海外にいらっしゃって、お姉さまがお一人いらっしゃるが他県にお嫁に出ていて、市内に親戚はいるけれど、この屋敷は瀧沢さんが暮らしながら管理している、という話だった。

 「こんな広い一軒家を維持するのは大変じゃないですか?」と尋ねると、週に二回ハウスキーピングの方が来てお掃除をしてくれている、と言うことだった。庭木は長い付き合いの庭師の方にお願いしているらしい。

 そんな話を聞きながら、こんな高級住宅街の中のお屋敷に住んでいるんだから、やっぱりお金持ちの方なんだなぁ、と実感した。
 私とは住む世界が違う…瀧沢さんの足が良くなるまでのお手伝いはするけど、深入りはしちゃだめだ、とこっそり胸に刻んでおいた。

 「宮野さんは?」

 突然そう言われて何のことか一瞬分からず、首を傾げた。

 「図書館で司書のお仕事をしてることは分かってるけど他は?実家から通ってるの?」

 「あ、いえ。市内に一人暮らししてます。」

 アンジュに夕飯を上げた後、瀧沢さんに教えてもらいながら入れたコーヒーの入ったカップを、そっとテーブルに置きながら彼の質問に答えた。

 「実家は県内なのですけど、離れているので就職を機に一人暮らしを始めたんです。」

 「そうなんだ。あ、自転車大丈夫だった?」

 「あっ!!」

 瀧沢さんに言われて初めて相棒の存在を思い出した。パンク状態で図書館の駐輪場に置きっぱなしにしたままだ。

 「従業員用の駐輪場にあるので大丈夫…だと思います。」

 「そっかあ、早くパンク直さないと不便だよね…」

 そう言いながら瀧沢さんは顎に手を当てて少し考え込むような姿勢を取った。
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