恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
舞台の上から誰もいなくなると、場内の明かりが付く。暗さに慣れた目を反射的に薄くつぶる。そのせいで、私の目から溜まった涙の滴がポロリと落ちた。
「杏奈?」
隣の修平さんが覗き込む。
「あ…、感動しちゃって…」
指先で涙を押さえながらそう言うと、修平さんがジャケットからハンカチを出して涙を拭いてくれる。
「ありがとう…。」
「ん。」
涙を拭う彼の瞳が優しくて、なんだかもっと泣きたくなった。
「杏、泣くのはもう少し待ってろ。どうせこの後も泣くことになるんだろうからな。」
「ヒロ君…」
「ほら、行くぞ。終わったら顔を出すって言ってあるから、きっと待ってると思うぞ。」
「うん、分かった。」
私とヒロ君の会話を聞いていた修平さんが、一人会話に着いて来れずに首を捻った。
「杏奈、行くって、どこへ?なにかこの後にも予定があるの?」
「えっと、修平さん、ちゃんと説明しようと何度も思ってたんだけど…」
「おいっ、急ぐから早く着いて来い。どうせ行けば分かるから。説明はそれからでもいいだろう。」
先に歩き出した父に急かされて、私たちは急いでその後ろを着いて行った。