恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!

 「杏奈」

 呼びかけに答えようともせず、むっつりと黙ったままの私の方を、修平さんがもう一度呼んだ。
 黙ったままの私を、両親が苦笑を浮かべて見守っているのが視界に映るけど、それすらもなんだか癇に障る。

 「杏奈、修平さん、私は制作チームやスタッフの方々にもう一度ご挨拶をしないといけないの。とりあえず今日のところはここまででいいかしら?もっとゆっくり話をしたかったのだけど、それはまたの機会に。杏奈、出来たら早いうちに一度顔を見せに帰ってきなさい、修平さんと一緒にね。修平さん、この子を宜しくお願いしますね。」

 しっかりと『母親』になってそう言うと、母は私たち二人を控室から追い出した。父はこの後、母を車で連れて帰るとその場に残った。


 「それでは、失礼します。」

 修平さんが控室のドアを閉める。私は相変わらず無言のままだ。

 「……杏奈。」

 「…………」

 彼の呼びかけに無言のままでいる。イライラは大分収まっているけれど、なんとなく気分を戻すことが出来ずにいる自分が嫌になった。

 「お腹空いてないかな、杏奈?」

 返事をしない私の口の代わりに、お腹が「ぐ~~っ」と大きな音を立てて返事をした。

 「っ、くくくっ、」

 修平さんが「堪えきれない」とばかりに、笑っている。

 「~~~~っ!!」

 自分のお腹の正直さに腹が立つけど、恥ずかしすぎて赤くなる。

 だって、仕事の昼休憩も軽くつまんだだけだったんだもんっ!!

 今はもう午後十時になろうとしている。
 定時きっかりで図書館を出る為に、今日一日いつもの何倍も動き回った上に、昼ご飯も軽く済ませた。それから何も食べてない私のお腹は、すっかり空っぽになっている。

 「ご飯、食べに行こうか。」

 修平さんはそう言って、私の頭の後ろをポンポンと軽く叩いた。

< 267 / 283 >

この作品をシェア

pagetop