恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
「…、好き?」
「え?」
私の声が小さすぎて彼には届かない。
「『橘ゆかり』よりも、好き??」
今度は聞こえるようにハッキリと言った。
…言ったものの、いや、言ってしまったからこそ、自分で自分が恥ずかしくて堪らなくなる。
どこの世界に、自分の母親に嫉妬する娘がいるのよっ!
―――そう、つまり私は母に嫉妬しているのだ。単なるヤキモチ。
そんなつまらないことで、いちいち彼を問い詰めてしまう自分の幼さに嫌になってしまう。
情けなくて恥ずかしくて、目の淵に涙が溜まってくるのを感じていると、突然体がグルッと回された。
「っ!」
声を出す暇もなく、彼に抱きすくめられる。
ギュウギュウと腕に力が込められて、苦しさのあまり声が出た。
「く、くるしい…修平さん。」
腕の中でもがくと、その腕が少し緩む。私は大きく息を吸い込んだ。
「杏奈、可愛い。」
頭の上から降ってきた言葉に、顔を上げる。
そこには、蕩けるほどの笑顔の修平さんの瞳とぶつかった。
「杏奈、可愛すぎ。」
二度も『可愛い』を連発されて、カーッと血の気が走る。
「可愛くないっ!さっきからずっと、可愛くない態度ばかりとってるもんっ」
ここに来る前からの自分の態度を振り返っても可愛い要因なんて一つも見当たらない。
修平さんは、『可愛い』って言えば、私の機嫌が直るって、そう思ってるんだ。
またしても、お腹の中がムカムカしてきた。