恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
5. 大義名分いただきます。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
玄関先で瀧沢さんに見送られながら、私は足早に門までのアプローチを歩いた。
右手にはアンジュのリードをしっかりと握って。
ついさっき、瀧沢さんからアンジュの散歩についての説明を聞いて、たった「初散歩」に出発したところだ。
瀧沢さんに、アンジュの散歩の道順とかを聞いてみたら、「コースはいつもアンジュが決めるから」と言われただけだった。
ただ、時間に余裕が無い時は、適当な所で切り上げてUターンしてきていいよ、と言われたくらいだった。
アンジュは私の右側をテクテクと歩いている。
引っ張ることなんて全然しないから、リードは緩い弧を描いてたわんだ状態のままだ。
私にとっては初めての場所であることを知っているみたいに、私の半歩先を先導するように進んでいく。
昨日、薄暗い中で見た時に「豪邸だらけだなあ。」と思っていたけれど、こうやって明るい時間帯に見ると、驚くほどの高級住宅街だ。ただ大きなお宅というだけでなく、なんだか歴史を感じる佇まいのお屋敷が沢山並んでいる。
この住宅街はなだらかな斜面にあるみたいで、瀧沢さんの家を出てからは坂を下る向きに進んでいる。
閑静な住宅街のどこからか、時折小鳥の声が聞こえてきて、私は朝の清々しい空気に気持ちが明るくなってくるのを感じていた。
脇道に猫を発見したり、時折アンジュの知り合いのワンちゃんとその飼い主さんに出会ったり(向こうから「アンちゃんおはよう」と声を掛けられて、自分の事かと思って慌てて挨拶を返したり)しながら、アンジュと二人で軽快に坂道を下って行った。