恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
 それから、アパートの住人全員が無事であったことや、火災保険の話を説明したりしているうちに、千紗子さんは思いついたように私に尋ねた。

 「それはそうと、昨日はどこに泊まったの?ホテル?」

 「え?」

 「金曜日の夜だったから空室が有ったのかちょっと心配してたんだけど。」

 ドキっとした。
 心配そうにしている千紗子さんを直視できずに視線をうろうろさせてしまう。
  
 「杏ちゃん?」

 「えっと、そ、それは…」

 突然挙動不審になった私にピンと来たのか、千紗子さんはスーッと目を細めて「杏ちゃん。」と問いただすように私の瞳をジッと見つめる。

 「どこに泊まったの?」

 「さあ、吐け。」と、刑事が容疑者に自白を促すのってこんな感じなのかも…

 千紗子さんから目を逸らしながらも、誤魔化しきれないと覚悟を決めて、私はその場所を口にした。
 
 私がその場所を「自白」した瞬間、始業時間となってしまった為、話は一旦お預けとなった。

 千紗子さんは大きな瞳を更に大きく開いて、いつもは上品で不必要に開いたりしないその口を、パクパクしながら言葉を無くしていたけど、始業の合図と共に「は~~~」と大きく息を吐き出した、。

 それ以上は追及することなく、仕事スイッチをオンにしたようだ。
 でも朝礼に一歩踏み出す時に、「続きは就業後ね。」と私の耳元で囁いた。

 
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