溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
片想いがお似合い
お腹の底を突き上げるような音が轟き、一帯を照らす光が眩しい。
「……綺麗だねぇ」
「うん……」
八月の夜空を鮮やかに彩る花火は、恋に憧れるばかりの私にチャンスをくれた。
「咲、お酒こぼさないようにね」
「大丈夫」
配られた缶ビールを掴むことすら忘れそうで、同僚の奈緒美に言われて、テーブルに置いた。
「ちゃんと見てる? さっきからぼーっとしちゃって」
「うん、見てるよ」
奈緒美は空を仰ぎ、私は左側に設けられた他社の席の様子を眺める。
時々、朝の通勤電車で見かけていた憧れの人。
話しかけることもできず、見つめるだけで満足していたその人が、隣にいるのだ。
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