溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「――お疲れ様。例の燻らせてた案件、進めるように言ってください」

 もう一本、仕事の連絡を済ませた彼は、きっと毎日多忙なんだろう。
 仕事もできる上に、人柄も完璧な人には素敵な相手がいるのが普通で……私の出る幕はなさそうだし、諦めたほうがいいのかもしれない。

 だけど、半年前からずっと焦がれてきた気持ちは、そう簡単に消えてくれなくて。
 今は、勤務先しか知らないとしても、もっと彼に近づきたいと欲張りになりそうだ。


「失礼ですが、あなたのお名前は?」
「三藤 咲です」

 彼に名前を告げただけで、大きな一歩を踏み出した気がした。
 一方的な出会いと見つめるだけの日々を繰り返していたのでは、名前すら知ってもらうこともなかっただろう。


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