溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「この年に生産されたのは、七千本だったかな。なかなか手に入らないんだけど、このホテルには方々に顔が利くソムリエがいるから、偶然置いてあってね」
「七千本って、日本にたったそれだけしかないんですか?」
私が知っているお酒といえば、缶ビールやチューハイ、手頃な価格で売っているワインなどしか思い浮かばない。
日頃嗜むこともほとんどないから購入する機会も少なく、本数限定で流通しているものでも、そこまでのものは聞いたことがなかった。
「いや、世界で七千本です」
「せ、世界で!?」
そんなに希少なものと知ったら、ますます遠慮しなくてはとグラスをテーブルに置いた。
「……もう酔ってしまいましたか?」
「さすがに、私なんかにはもったいなくて」
「なにを言うかと思えば……。あなたと今日飲むなら、これがいいんです。だから、気を使わないで」
優しい声色に、胸の奥までシュワッと弾けるようだ。
もう関わることはないと思っていただけに、不慣れな恋心は今日の彼の優しさに溶けてしまいそうだ。