溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「傘で周囲の視線が遮られているとはいえ、公衆の面前であんなことを言われたのは、生まれて初めてです」
――怒らせてしまったのは、なんとなくわかっていた。そうじゃなきゃ、二度と現れるななんて言わないもの。
ゆっくりと離れていく彼の指先は、再びグラスを持つ。
「なので、お見合いしていただいたんです」
「えっ!? あの……」
「私を煽った罰、とでも言いましょうか」
「罰!? だって、お見合いですよ?」
狼狽えている私を他所に、彼は美味しそうに高価なシャンパンを飲み、冷静な瞳で見つめてくる。
楽しそうに微笑みを浮かべられても、緊張とは違うドキドキが胸の奥を刻む。
「日頃から祖父や父が結婚を急かすものですから、耳が痛くてたまらず、せめて形だけでもその意志はあると見せておきたかった。だったら、三藤さんが適任だと思いつきました。これで今日を機に、しばらくは黙っていてくれるでしょう」
彼の考えは、私の想像をはるかに上回り、そしてあまりにも身勝手だ。
周りの人の期待や喜び、労力や時間を一体なんだと思っているんだろう。