溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
身支度を済ませてリビングで過ごしていると、彼の携帯が鳴った。「今行きます」と返事をしたので、運転手が到着を連絡してきたようだ。
「それじゃ、戸締りは頼みます」
「はい……」
「ん? どうしました?」
どうしたもこうしたも、彼のスーツ姿が朝から拝めるなんて、眼福が過ぎるのだ。
通勤電車で、今朝はいないだろうかと目を凝らし、不審に思われない程度に周りを見渡しては、会えない日が続いていた頃が嘘のよう。
「あのっ、八神さんは電車通勤されることがあるんですか?」
「電車? いや、乗らないよ。いつも迎えがあるから」
「……そう、ですか」
あれ? だって私が彼にひと目惚れしたのは通勤電車だったはず。
こんなに素敵な人は、二人といないだろうし……。