溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「おはようございます。三藤さんは今日も一番乗りですね」
「真野さん、おはようございます」
「なにか探し物?」
「ちょっと、見直したいものがあったので」
「そう。施錠だけはきっちりお願いしますね」

 朝一番で契約書が入っているキャビネットを開けたことなんてない。
 先輩社員の真野さんは、ちょっとだけ不思議そうに私を見てから、いつもと同じように休憩室の自販機へ向かったようだ。


 それからは、通常業務に就いた。
 総務の仕事は地味ながら、会社を支える大切な部署。
 やりがいも感じているし文句はないけれど、華やかな営業や広報などの部署にいる女性社員が、裏では総務を見下しているのを知っている。

 このところは、営業のエースを見事射止めた奈緒美の寿退社の一件があったからか、風当たりは強くなった。
 だけど、そんなものは彼女に対する妬みの延長線上にあるものだと分かっているから、私は気にしていない。


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