溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「それくらいの事で目くじらを立てたりしないよ。咲の信用を得られていないのは自分のせいなんだから」
「っ、でも……だって……」
「あぁ、もうダメ。俺の負けだな」
「負けってなんのことですか?」
混乱している私から視線を正面に戻し、青信号で動き出した車列に合わせて、彼はアクセルを踏む。
「再会した雨の日、咲にあんな物言いをされて、たしかにムッとしたよ。俺の悪評を知っていて、鵜呑みにしたんだろうなと思ったら、すごく腹立たしくてね。……でも、初めて会って過ごした夜から、咲のことをずっと忘れられなかったんだ。ほどなくして、どうやったら俺に興味を持ってくれるか考えるようになった」
「えっ!?」
驚きで声がひっくり返ってしまった。
そんな私を一瞥した彼は、相変わらず余裕のある微笑みを浮かべるだけ。
「それで、自分の悪評を最大限利用することにしたんだよ」
驚きと共に、彼の横顔をまじまじと見つめていたら、不意に髪が撫でられた。