溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「ここは、俺が社長をしてる呉服店。釣書にあっただろ?」
「そうだったんですね。すごく趣があって、懐かしさも感じます」
「高祖父の時代から、いろんな節目を見てきたこの街の重鎮みたいな存在なんだよ。都内と地方に数店舗あるけど、ここが本店で、俺が守り受け継いでいく歴史の要でもあるんだ」

 八神さんが由緒正しい家柄の人だっていうのは、十分すぎるほど理解していたけれど、歴史を感じる建物やそこで働いている人たちを見たら、一層その重みを感じた。


 店内には、綺麗に着物を纏ったマネキンが数体と、小上がりの座敷で反物を広げている婦人の姿がある。


「社長、お待たせいたしました。奥でどうぞご覧ください」
「ありがとう」

 店内を進む彼の背を追うと、八畳ほどの和室に綺麗な着物が用意されていた。


< 145 / 210 >

この作品をシェア

pagetop