溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「咲、どうしたの?」
「……すごく綺麗で、言葉になりません」

 衣桁に広げられている着物がどれも綺麗で感嘆していると、彼は端から順にゆっくり見せてくれた。


「通年で着れる、加賀友禅と京友禅の新作訪問着を最近買い付けたばかりで、咲にどうしても見せたかったんだ」
「成人式に来た振袖も、この前着た訪問着も好きですけど……品格を感じてしまって、言葉になりません」
「振袖はご両親か親戚の方が用意してくれたんだろうね。でも、そういう一着とは比べられないものがあると、俺は思ってるよ。受け継いだものにも、こういう商品にも、値をつけられない想いや歴史が詰まっているからね。咲も、大切にしなくちゃいけないよ」
「はい」

 だけど、目の前の高級品の輝きにはどうも心が奪われてしまう。


「気になったものから、着てみたら?」
「えっ、それはできません。汚してしまっては大変ですから、見ているだけで十分です」
「大丈夫。咲の着物姿を俺に見せてくれないかな?」

 やわらかな微笑みでお願いされると断れず、私はいくつかある着物の中から一着を選んだ。

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