溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
女性スタッフが店先に戻ってしまい、彼とふたりきりになった。
「八神さんの着物姿を見るのは、二回目ですね。夏に見たのも素敵でしたけど……」
「覚えててくれたんだね。あの時は天気を考えて自宅で洗えるような袷着物だったから、今日ほどいいものでもなかったけれど」
それでも、ハッと息を飲むほど素敵だった彼の姿は、冷たい言葉と共に記憶に新しくて。
「咲、すごく綺麗だ。誰の目にも触れさせたくないくらいだよ」
「……そ、そうやって、八神さんはお世辞ばっかり」
だから、勘違いされたり望まぬ噂を立てられるんだって言おうと思ったけれど、彼の眼差しがとてもまっすぐでやわらかく、誠実で……。
「お世辞なんかじゃないよ。でも、俺の手でもっと素敵にしたい」
和箪笥の上にあった小物入れから櫛や扇のかんざしを取り出した彼は、手際よく私の黒髪を緩めのシニヨンにしてくれた。