溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
着物姿のまま店先に出ると、居合わせた他のお客にまで褒められて、一層くすぐったい気分だ。
「このまま出ます」
「かしこまりました」
履物やバッグ、扇子などもひと通り合わせたところで、彼はスタッフにそう告げてから、私の手を引いた。
「あの、さすがにこのままは申し訳ないです。早く着替えないと」
「俺からのプレゼントだよ。よく似合ってるし、着物でデートをするのも悪くないでしょ?」
悪いからと遠慮しても、彼は譲らない。それどころか、私のために用意したとまで言われてしまい、ありがたくいただくことにした。
慣れない高級品に動きがぎこちなくなるけれど、彼が車までエスコートしてくれて助かった。
「どうしたの?」
着物姿でハンドルを握る彼も素敵で見惚れてしまい、その視線は容易く気付かれてしまって。
「や、八神さんも……」
「ん? 俺がなに?」
「お着物、すごく似合ってて、素敵……です」
ドキドキしながらもようやく伝えた私は、途中から彼を見れなくなってしまった。
だけど、なにも言ってくれないから不安になって、横目で様子をうかがったら、耳を赤くしている横顔があった。