溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
それから、さらに懸命に探したけれど見つけることはできなかった。
諦めて帰宅しようと、キャビネットにすべて片付けて施錠をしっかり行い、部内の電気を消してからロッカールームに向かった。
「はぁ……どうしよう」
肩にのしかかった重責が、眠気すら奪う。
誰かが持ち出して、外で紛失していたとしたら、いくら探しても見つかるはずがない。だけど、情報漏えいになって大ごとになる。
私のような平社員が、大切な契約を白紙にしたうえ、社の信用を失墜したなんてことになったら、来期は異動を命じられるだろうか。最悪、解雇になったりするのかな……。
地味だけど、地味なりにやりがいを感じ、私にとっては快適な就業環境だったのに。
ダッフルコートを羽織って、社内履きからブーツに履き替え、肩を落としてフロアを出た。
エレベーターを待つ間、いつものように携帯を確認するなり、大量の通知が表示されて驚いた。
三十件の不在着信、五件の留守番電話、二十件のメッセージ。
――すべて、八神さんからで。
おそるおそる電話をかけ直したら、呼出音が鳴ったと同時に通話に切り替わった。