溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
《咲? 咲、大丈夫か!?》
「えっと、あの」
《どうした? 今どこにいる?》
「や、八神さん、あの……」
《咲、居場所を言ってくれ。無事なんだよな?》
……ん? 無事?
彼の焦った様子と、私の戸惑いをよそに質問攻めにされた理由がなんとなくわかって、申し訳ない気分になった。
「八神さん、ごめんなさい。心配してくれたんですか?」
《当たり前だろう? なんで俺の部屋にいないんだよ!》
「わけあって、今、会社を出るところなんです……」
無事を知らされた彼は、心から安堵した声を漏らす。
《待ってるから、気を付けておいで》
「はい」
エレベーターに乗り込み、社の裏口から出て正面に回る。この時間にタクシーがすぐ掴まるかどうか考えながら歩くと、見覚えのある姿が社の入口で立っていた。