溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「っ、八神さん!?」
「咲……よかった。本当に無事でよかったよ」

 駆け寄ってきた彼に引き寄せられて、カシミアコートに私の頬が埋まる。
 力強く抱きしめてくれた彼の温もりに、ホッとして安堵の吐息が漏れた。

 ふと見上げると、二人分の吐息が白く色づいて消えていく。


「いつからいたんですか?」
「一時間くらい前かな」
「えっ!? そんなに? 風邪をひいたらどうするんですか!?」

 手袋を外して彼の頬に触れようとしたら、再び抱きしめられた。


「咲が何も言わないでいなくなったから……思い当るところを探し回ってたんだけど」
「……ごめんなさい」
「Stationiaに電話したけど、業務時間外で繋がらなくて……中に入ろうにも、部外者だから入れてもらえなくてね」

 私の迷惑まで考えて、それでもできる限り尽くして探し回ってくれていたのだと知り、思わず涙が滲んだ。


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