溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
六月。
しばらく電車通勤しない間に、季節は夏を目前に梅雨に入っていた。
日々、グループの副社長としての仕事と、呉服店の社長としての業務に追われ、上顧客のマダムの相手なんかも結構馬鹿にできない仕事のひとつだったりして……肩が凝って仕方ない。
「片桐、今日はこれで終わりだったか?」
「はい。ホテルに向かっております」
「ありがとう」
ホテル暮らしも五年目に突入。
都内のホテルを渡り歩き、両親や祖父には呆れられる始末だ。
早く結婚しろだとか、いい人を見つけておいたとか……勘弁してくれよ。仕事でさえ敷かれたレールの上を歩まされているのに、結婚まで決められるなんてたまったもんじゃない。
かといって、世間のよからぬ噂のせいで、寄りつく女は大抵どうしようもない。
相手をするだけ時間の無駄で、このところ浮いた話はなくなった。