溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
名前も勤め先も、彼の人となりの一切を知らないのに、半年前に出会った通勤電車でひと目惚れして以来、彼以外の男性が目に入らなくて。
だけど、今夜ひとつだけ分かったことがある。
私たちがいる席は、協賛企業のために設けられた特別観覧席。
そして、私が勤務している大手文具メーカー【Stationia(ステーショニア)】と同様に、彼の勤め先もこの花火大会に協賛しているようだ。
隣の席は……【八神グループ】か。
服飾最大手の一流企業が、彼の勤務先らしい。
時々電車で見かけるたびに、お洒落な人だと思っていたのも納得だ。それに、大企業で働けるだけの頭脳と手腕もあって、人望も厚かったりするんだろうなぁ。
仕切りのない特別観覧席は、電車で出くわすよりも話しかけやすそうだけど、恋愛経験がほぼゼロに近いせいで動きが取れない。
「あっ、部長! お疲れ様です」
私が所属している総務部の部長が家族連れでやってきたと、奈緒美が教えてくれた。